コロナウイルスとコウモリの関係は?WHO起源調査と2026年最新研究を徹底解説

目次

コロナウイルスとコウモリには、どのような関係があるのか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となったSARS-CoV-2は、コウモリが保有するウイルスと遺伝的に近いことが分かっている。しかし、コウモリから人間に直接感染したのか、別の動物を介したのかという具体的な感染経路は、2026年11月現在も完全には解明されていない。

その謎に新たな材料を加えたのが、2025年6月のWHO・SAGOによる起源調査報告書と、2026年に相次いで発表されたタイ、カンボジア、ブラジルのコウモリ由来コロナウイルス研究だ。東京大学医科学研究所のG2P-Asiaコンソーシアムによる研究では、SARS-CoV-2と同じヒト受容体を利用できるウイルスも確認された。一方、実験では病原性や感染伝播能力に明確な違いが示されている。

コウモリは本当に新型コロナウイルスの自然宿主なのか。2026年に報告された新種は人間に感染するのか。遺伝的な近さと実際の感染リスクは何が違うのか。最新の査読研究とWHOの公式資料をもとに、分かっている事実と残された謎を整理する。

📌 【この記事の重要ポイントまとめ】

  • 要点1:SARS-CoV-2に近縁なコロナウイルスはキクガシラコウモリ類から発見されているが、直接の祖先ウイルスは特定されていない。
  • 要点2:WHOの2025年SAGO報告書は、動物由来の感染を最も強く支持する一方、研究所関連説を含む複数の仮説を残した。
  • 要点3:2026年にはタイ、カンボジア、ブラジルで新たなコウモリ由来ウイルスが報告されたが、人間への感染やパンデミック発生が確認されたわけではない。

【基礎知識】コロナウイルスとコウモリにはどのような関係がある?

コロナウイルスコウモリ

コウモリとコロナウイルスの関係を理解するには、まず「自然宿主」「中間宿主」「感染源」という3つの概念を区別する必要がある。

コウモリはコロナウイルスの重要な自然宿主

コウモリは哺乳類の中でも非常に多様なグループであり、アルファコロナウイルスやベータコロナウイルスを含む多様なウイルスを保有している。

特に注目されているのが、キクガシラコウモリ属(Rhinolophus)だ。アジア各地に生息するこのグループからは、SARS-CoVやSARS-CoV-2に近縁なサルベコウイルスが複数発見されている。

2021年に発表され、2022年に掲載されたNature Reviews Microbiologyの総説では、14のコウモリ科に属する動物から4,000を超えるコロナウイルス配列が報告されていることが整理された。実際に存在するウイルスの多様性は、これまでの調査で確認された範囲をさらに上回る可能性がある。

つまり、コウモリは新型コロナウイルスだけを保有する特殊な動物ではない。多様なコロナウイルスが長い時間をかけて進化してきた生態系の一部なのである。

ただし、コウモリがウイルスを保有していることと、人間に感染させる能力があることは別問題だ。動物からウイルスが検出されたというだけで、人間への感染が成立するとは限らない。

なぜキクガシラコウモリが研究対象になるのか

キクガシラコウモリ類が注目される最大の理由は、SARS関連コロナウイルスの遺伝的な近縁種が複数見つかっていることだ。

研究では、ウイルス表面に存在するスパイクタンパク質が特に重視される。このタンパク質は、ウイルスが宿主細胞に結合して侵入する際に関係する構造であり、どの動物の細胞に感染できるかを左右する要素の一つだ。

キクガシラコウモリが保有するウイルスの中には、ヒト細胞のACE2受容体を利用できるものも確認されている。ただし、受容体に結合できることだけでは、人間の体内で効率よく増殖したり、感染症を引き起こしたりすることの証明にはならない。

Nature Reviews Microbiologyの研究総説も、動物から人間への感染が成立するには、ウイルスの性質だけでなく、人間と動物の接触機会や感染が起こる環境が重要だと指摘している。

【SARS-CoV-2の起源と真相】コウモリとの遺伝的な近縁性とWHOの2025年調査

新型コロナウイルスの起源を考えるうえで重要なのが、SARS-CoV-2とコウモリ由来ウイルスの遺伝子配列を比較した研究だ。

RaTG13とBANAL-52はどれほど近いのか

これまでに確認された代表的な近縁ウイルスが、RaTG13とBANAL-52である。

RaTG13は中国雲南省で採取されたキクガシラコウモリ由来のウイルスで、2013年に採取された試料から特定された。SARS-CoV-2との全ゲノム塩基配列の一致率は約96.1%と報告されている。

一方、ラオスのキクガシラコウモリから採取されたBANAL-52は、SARS-CoV-2との全ゲノム一致率が約96.8%だった。これはRaTG13よりも高い数値であり、SARS-CoV-2に近い動物由来ウイルスとして重要な研究対象になっている。

ただし、96%を超える一致率があっても、両者が同じウイルスという意味ではない。全ゲノムの約3%に相当する違いは小さくなく、直接の祖先と判断することもできない。

Natureに掲載された2022年の研究では、ウイルスのゲノムは単純な一本の進化経路だけでは説明できず、異なるウイルス間の組換えも考慮する必要があることが示されている。

WHO・SAGOの2025年起源調査報告書が示した結論

2025年6月27日、世界保健機関(WHO)は、新規病原体の起源に関する科学諮問グループSAGOによるSARS-CoV-2の独立評価報告書を公表した。

この報告書は、27人の国際的な専門家で構成されるグループが、3年以上にわたって研究論文、現地調査、専門家への聞き取りなどを評価したものだ。報告書は全78ページに及ぶ。

最も重要なのは、SAGOが利用可能な証拠の重みは、コウモリから直接、または中間宿主を介した動物由来の感染を支持していると評価した点である。

一方で、WHOは研究所関連の事故など、ほかの仮説も排除していない。これは研究所からの流出が確認されたという意味ではなく、すべての仮説を十分に評価するための情報がそろっていないという判断だ。

WHOは中国に対し、パンデミック初期の感染者に関する遺伝子配列、武漢の市場で販売されていた動物の詳細、研究所の研究内容やバイオセーフティーに関する情報などの共有を求めている。2025年の報告書公表時点で、必要な情報の一部は提供されていなかった。

2026年2月には、SAGOの元メンバー23人もNatureに寄稿し、科学的証拠の多くは動物由来説を支持するものの、具体的にいつ、どこで、どのように人間への感染が起きたのかは確定していないと説明している。

したがって、2026年11月時点での科学的な整理は次のようになる。

  • コウモリ由来コロナウイルスがSARS-CoV-2の進化的な起源に関係した可能性は高い。
  • 中間宿主を経由したのか、直接人間に感染したのかは確定していない。
  • 武漢の華南海鮮卸売市場をめぐる動物取引関連の証拠は存在する。
  • 研究所関連説を確定する証拠も、完全に否定するだけの情報もそろっていない。

起源の調査では、可能性の高さと科学的な確定を混同しないことが重要だ。

【2026年最新研究】タイ・カンボジア・南米で発見された新たなコウモリ由来ウイルス

2026年のコウモリ由来コロナウイルス研究では、東南アジアと南米から重要な報告が相次いだ。特に注目すべきなのは、ウイルスの遺伝子を調べるだけでなく、細胞への結合能力や感染性、動物モデルでの病原性まで評価する研究が進んでいることだ。

2026年5月:東京大学医科学研究所のG2P-Asiaがタイで新系統を発見

2026年5月6日、Cellに「Virological characteristics of SARS-CoV-2-related coronaviruses dynamically circulating in Southeast Asia」という研究論文がオンライン公開された。

研究には東京大学医科学研究所とタイのチュラロンコン大学などが参加し、東京大学医科学研究所の佐藤佳教授が率いるGenotype to Phenotype Asia(G2P-Asia)コンソーシアムが関わっている。

調査対象となったのは、タイのチャチューンサオ県にある人工洞窟に生息するキクガシラコウモリの一種、Rhinolophus acuminatusだ。

研究チームは、同じコウモリの集団内に2種類のSARS-CoV-2関連コロナウイルス系統が共存していることを確認した。新たに詳しく調べられた系統はClade Bと呼ばれ、従来確認されていたClade Aと同じ個体のコウモリから検出された例もあった。

注目されたのは、Clade BがSARS-CoV-2と同じヒトACE2受容体を利用できたことだ。

しかし、代表ウイルスであるRacCS20637を用いた実験では、SARS-CoV-2よりもヒト細胞内での増殖が遅く、ハムスターにおいても明確な病理変化や個体間の感染伝播が認められなかった。

さらに、COVID-19ワクチンを3回接種した人の血清によって中和され、SARS-CoV-2に使用される既存の抗ウイルス薬も有効性を示した。

東京大学医科学研究所の2026年5月7日付プレスリリースでは、この研究が東南アジアにおけるコウモリ由来ウイルスの多様性と、ウイルスが人間へ感染する可能性に関する理解を深めるものと説明されている。

この研究が示したのは、ヒト受容体を利用できるという性質と、実際に人間へ感染症を広げる能力は同じではないということだ。

2026年7月:カンボジアで1,462匹のコウモリを調査

2026年7月23日、Nature Communicationsにカンボジアのコウモリ由来サルベコウイルスを解析した研究が掲載された。

研究チームは、カンボジアのストゥントレン州で3年間にわたり、合計1,462匹のコウモリを調査。解析によって33種類の完全長サルベコウイルスゲノム配列を取得し、4つの異なる系統群を確認した。

これらのウイルスは異なるキクガシラコウモリの種と関連しており、短い距離や期間の中でもウイルス系統の移動や遺伝子組換えが起きている可能性が示された。

特に注目されたのは、2つの新しいウイルス群の受容体結合領域(RBD)がSARS-CoV-2と高い類似性を持っていたことだ。疑似ウイルスを使用した実験では、ヒトACE2を発現する細胞への侵入能力も確認された。

ただし、これは疑似ウイルスを用いた細胞実験の結果であり、コウモリ由来のウイルスそのものが人間に感染したことを示すものではない。

2026年9月:ブラジルで新たなベータコロナウイルス系統を報告

2026年9月5日、Nature Communicationsに「A divergent betacoronavirus with a functional furin cleavage site in South American bats」という論文が掲載された。

大阪大学、東京大学、ウィスコンシン大学などの研究者が参加した国際研究で、ブラジルのコウモリから新たなベータコロナウイルスの完全なゲノム配列を特定した。

対象となったのは、Pteronotus parnelliiというコウモリだ。研究で扱われた試料はブラジルのマラニョン州やサンパウロ州などで採取されており、実際の採取時期は2019年5月から8月だった。

つまり、2026年に発見されたという表現は、2026年に新たな研究成果として報告されたという意味であり、ウイルスを採取した年は2019年である。

このウイルスは既知の5つのベータコロナウイルス亜属とは大きく異なり、新しい亜属に相当する可能性が示された。研究チームはBRZ batCoVと呼んでいる。

さらに、ウイルスのスパイクタンパク質には、フーリン切断部位と呼ばれる構造が確認された。

そのアミノ酸配列はRDARであり、SARS-CoV-2のRRARとは1つのアミノ酸だけが異なる。実験では、この部位がフーリンによって機能的に切断されることも確認された。

ただし、ここで重要なのは、フーリン切断部位が存在することと、人間への感染力や重症化能力が証明されたことは違うという点だ。この研究は新たな進化的特徴を明らかにしたものであり、BRZ batCoVが人間に感染することを確認した研究ではない。

2026年10月:タイのキクガシラコウモリから感染リスクに関する新知見

2026年10月5日には、Nature系列のCommunications Biologyに、タイのRhinolophus pusillusを対象とした研究が掲載された。

研究チームは、野生動物と人間の接触機会が多いタイのラーチャブリー県で、261匹のコウモリを調査した。

その結果、アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスを含む多様なコロナウイルスが検出され、コロナウイルスの検出率は16.47%だった。

さらに、SARS-CoV-2関連コロナウイルスの完全なゲノム配列を5種類取得。そのうちRpuRB21065というウイルスは、SARS-CoV-2と類似したスパイクタンパク質と受容体結合領域を持ち、ヒトACE2への結合能力が細胞実験で確認された。

スパイクタンパク質による細胞融合も実験で観察された一方、COVID-19ワクチン接種者の血清はRpuRB21065を効果的に中和した。

この研究は、ウイルスを分離することができていない段階でも、野生動物の継続的な監視によって人間への感染リスクに関する重要な情報を得られることを示している。

なお、2026年5月のG2P-Asia研究と10月の研究は、同じタイで行われたものだが、対象となるコウモリの種や調査内容が異なる。両者を同一のウイルス発見として扱うのは正確ではない。

【感染経路の謎】コウモリから人間へコロナウイルスはどう感染するのか

コウモリ由来コロナウイルスの人間への感染リスクを考えるとき、重要になるのが動物から人間への感染、すなわち人獣共通感染症の成立過程だ。

考えられる感染経路は直接感染と中間宿主経由

コウモリから人間への感染経路には、大きく分けて2つの可能性がある。

1つ目は、コウモリが保有するウイルスが人間に直接感染する経路だ。2つ目は、別の動物にウイルスが移り、その動物が中間宿主となって人間に感染させる経路である。

中間宿主が関与する場合、ウイルスは動物間の移動や進化を経て、人間に感染する条件を獲得する可能性がある。

過去のSARSやMERSでも、コウモリと人間の間に別の動物が関わる感染経路が重要な役割を果たした。

武漢の華南海鮮卸売市場と動物由来説

SARS-CoV-2の起源を考えるうえでは、中国・武漢市の華南海鮮卸売市場も重要な調査対象になっている。

2022年にScienceで発表された研究では、2019年12月の初期感染者の地理的な分布が市場周辺に集中していたことや、市場で感染可能性のある生きた哺乳類が販売されていたことが報告された。

さらに2024年のCell掲載研究では、市場の環境試料を解析し、SARS-CoV-2陽性試料と野生動物を販売していた店舗の関連が検討された。試料からはタヌキ、ハクビシン、タケネズミなどの動物由来DNAも確認されている。

こうした証拠は野生動物取引に関連した動物由来説を支持する材料だが、感染した動物の個体を特定し、そこから人間への感染経路を完全に再現したわけではない。

コウモリと人間の接触で注意すべきこと

コウモリ由来ウイルスへの曝露リスクは、単純にコウモリが近くにいるかどうかだけで決まるものではない。

感染した動物の唾液、尿、糞便、血液などに接触することや、動物を捕獲・解体する作業、野生動物の取引などが曝露機会になる可能性がある。

特に洞窟や採掘跡など、多数のコウモリが集まる場所では、動物由来の排泄物に接触する機会が生じる。CDCの旅行医学資料でも、コウモリが生息する洞窟や鉱山などへの不用意な立ち入りを避けるよう案内している。

一方、屋外でコウモリを遠くから見かけただけで、新型コロナウイルスに感染するということではない。

コウモリに触れたり、咬まれたりした場合は、狂犬病など別の感染症の危険性も考慮し、医療機関や地域の公衆衛生機関に相談する必要がある。

【徹底比較】SARS・MERS・COVID-19とコウモリの関係は何が違う?

SARS、MERS、COVID-19は、いずれもコロナウイルスによる人間の感染症だが、動物との関係や感染経路には違いがある。

特に、自然宿主と人間への直接的な感染源を混同しないことが大切だ。

対象 コウモリとの関係 中間宿主・動物 2026年時点の理解
SARS-CoV キクガシラコウモリ類が自然宿主の有力候補 ハクビシンなど 野生動物取引と人間への感染の関連が研究で支持されている
MERS-CoV 進化的な起源はコウモリにある可能性 ヒトコブラクダ ラクダが人間への主要な感染源として確認されている
SARS-CoV-2 近縁ウイルスがコウモリから複数発見されている 未特定 動物由来説が最も強く支持されるが、具体的な感染経路は未解明
タイのClade B キクガシラコウモリから検出 人間への感染は未確認 ヒトACE2を利用できるが、実験では病原性や伝播能力が低かった
ブラジルのBRZ batCoV Pteronotus parnelliiから検出 人間への感染は未確認 新たなベータコロナウイルス系統と機能的なフーリン切断部位が確認された

SARS-CoVはハクビシンが重要な橋渡し役だった

2002~2003年に流行したSARSでは、中国南部の野生動物市場で販売されていたハクビシンなどから、ヒトのSARS-CoVに近いウイルスが確認された。

その後の研究で、キクガシラコウモリ類がSARS関連ウイルスの自然宿主であることを示す証拠が蓄積された。

ただし、ハクビシンがどのような経路でウイルスを獲得したかなど、すべての動物間の移動過程が明らかになったわけではない。

MERS-CoVはラクダが人間への主要な感染源

MERS-CoVは2012年に確認されたウイルスで、中東を中心にヒトへの感染が報告されてきた。

WHOによると、ヒトコブラクダが自然宿主であり、人間への感染源として重要な役割を果たしている。感染したラクダとの直接接触や、関連する生の動物由来製品などを介した感染が問題となる。

ウイルスの進化的な起源についてはコウモリとの関連が考えられているが、MERS-CoVの人間への感染経路を説明するうえでは、ラクダの存在が特に重要だ。

COVID-19は中間宿主が特定されていない

SARS-CoV-2については、コウモリ由来の近縁ウイルスが確認されているものの、実際に人間への感染を引き起こした動物や、感染直前のウイルスは特定されていない。

この違いが、SARS-CoV-2の起源調査を難しくしている大きな理由の一つだ。

過去のSARSやMERSで動物から人間への感染が確認されたからといって、COVID-19も同じ動物や経路を通ったと断定することはできない。

【誤解を検証】コウモリ由来コロナウイルスは人間にとって危険なのか

2026年の研究成果を見ると、コウモリ由来コロナウイルスには人間の細胞に結合できるものが存在する。しかし、それだけで新たな感染症の流行が迫っていると判断するのは適切ではない。

ACE2に結合できることと人間に感染することは違う

ウイルスの感染能力を評価するとき、研究者は複数の段階を調べる。

  • 遺伝子配列:既知のウイルスとどの程度似ているか。
  • 受容体結合:ヒトACE2などの細胞受容体を利用できるか。
  • 細胞実験:細胞に侵入し、増殖できるか。
  • 動物実験:実際の生体内で病原性や感染伝播が認められるか。
  • 人間の感染確認:自然環境で人間への感染が実際に起きているか。
  • 人から人への感染:持続的な感染拡大を引き起こす能力があるか。

これらは別々の評価項目だ。ACE2結合が確認されたというニュースだけを見て、人間への感染が成立したと解釈するのは誤りである。

2026年のタイの研究が示した重要な違い

2026年5月のG2P-Asia研究では、Clade BがヒトACE2を利用できる一方、代表ウイルスRacCS20637はSARS-CoV-2よりもヒト細胞で増殖しにくく、ハムスター間の感染伝播も確認されなかった。

10月のCommunications Biology掲載研究でも、ヒトACE2への結合や細胞融合を示すウイルスが見つかった一方、ワクチン接種者の血清による中和が確認された。

これらは、コウモリ由来ウイルスの一部が人間の細胞に関係する性質を持っていても、実際の感染リスクはウイルスごとに異なることを示している。

コウモリを排除することが感染症対策ではない

コウモリは自然界で重要な役割を果たしている。昆虫を食べる種は農業害虫の抑制に関わり、果実を食べる種は植物の種子散布や受粉に貢献している。

コウモリを一律に危険な動物と見なして排除すれば、生態系への影響を招く可能性がある。

感染症対策として重要なのは、コウモリと人間の接触機会を適切に管理し、野生動物の取引や生息環境の変化を監視することだ。

動物、人間、環境を一体として捉えるワンヘルス(One Health)の考え方は、将来の感染症を予防するうえでも重要になっている。

【プロの結論】2026年最新のコロナウイルス研究から見える今後の課題

2026年の研究成果を総合すると、コウモリ由来コロナウイルス研究は、単に新しいウイルスを発見する段階から、感染性や病原性を個別に評価する段階へ進んでいる。

特に重要なのは、次の3つの視点だ。

1. 遺伝的な近さだけで危険性を判断しない

RaTG13やBANAL-52はSARS-CoV-2と高い遺伝的類似性を持つ。しかし、それらが直接の祖先であると証明されたわけではない。

同様に、ブラジルで報告されたBRZ batCoVも、SARS-CoV-2に似たフーリン切断部位を持つからといって、SARS-CoV-2の起源に直結するウイルスではない。

遺伝子配列、受容体結合、細胞内での増殖、病原性、感染伝播をそれぞれ分けて評価する必要がある。

2. 東南アジアと南米のウイルス監視を継続する

タイやカンボジアでは、複数のキクガシラコウモリ種から多様なウイルスが発見されている。

一方、ブラジルの研究は、これまで十分な調査が行われてこなかった南米にも、未知のベータコロナウイルスが存在することを示した。

地域によって調査体制やゲノム解析能力には差がある。将来の感染症対策には、ウイルスが発見された後に対応するだけでなく、動物の生息地域で継続的に監視する体制が欠かせない。

3. WHOの起源調査に必要な情報共有を進める

SARS-CoV-2の起源については、2025年のWHO・SAGO報告書が動物由来説を最も強く支持したものの、感染経路の全容は分かっていない。

今後の調査には、パンデミック初期の検体、動物取引の記録、野生動物の調査データ、研究施設に関する情報など、複数の分野の情報が必要になる。

科学的な議論を進めるには、国境を越えたデータ共有と独立した検証が重要だ。

情報を見極める際の判断基準は、ウイルスが見つかったという事実だけでなく、どの動物から、どのような方法で検出され、どの段階まで感染性が確認されたかを見ることにある。

新型コロナウイルスの起源を理解することは、過去のパンデミックの原因を知るだけでなく、次の感染症を防ぐための研究にも直結している。

コロナウイルスとコウモリに関するよくある質問(FAQ)

Q1:新型コロナウイルスはコウモリから人間に直接感染したのですか?
A1:直接感染した可能性と、中間宿主を介して感染した可能性の両方が検討されている。WHOの2025年SAGO報告書は動物由来の感染を最も強く支持しているが、実際の感染経路や中間宿主は特定されていない。

Q2:2026年にタイで発見されたコウモリ由来ウイルスは危険ですか?
A2:タイでは2026年5月と10月に重要な研究が報告された。ヒトACE2を利用できるウイルスも確認されたが、細胞実験や動物実験ではSARS-CoV-2と異なる性質が示されている。人間への感染が確認されたわけではない。

Q3:南米で2026年に発見された新種のコロナウイルスとは何ですか?
A3:ブラジルのコウモリPteronotus parnelliiから特定されたBRZ batCoVである。2026年9月にNature Communicationsで報告され、新しいベータコロナウイルス亜属に相当する可能性が示された。試料の採取時期は2019年であり、人間への感染は確認されていない。

Q4:キクガシラコウモリはすべてコロナウイルスを持っているのですか?
A4:すべての個体がコロナウイルスを保有しているわけではない。ウイルスの検出状況は種や地域、調査時期によって異なる。検出されたウイルスの種類も多様である。

Q5:コウモリを見かけただけでCOVID-19に感染しますか?
A5:コウモリを遠くから見かけただけでCOVID-19に感染するということではない。ただし、野生のコウモリに直接触れたり、咬まれたりすることは別の感染症のリスクもあるため避けるべきだ。

Q6:SARS-CoV-2の自然宿主は2026年現在、特定されていますか?
A6:SARS-CoV-2に近縁なウイルスを保有するコウモリは確認されているが、パンデミックを引き起こしたSARS-CoV-2の直接の祖先や、感染直前の動物宿主は特定されていない。

まとめ:コロナウイルスとコウモリの関係を正しく理解するために

コロナウイルスとコウモリには、長い進化の歴史を通じた深い関係がある。特にキクガシラコウモリ類は、SARS-CoV-2に近縁なウイルスが確認されている重要な自然宿主の一つだ。

2025年のWHO・SAGO起源調査報告書は、動物由来の感染を最も強く支持した。しかし、コウモリからの直接感染なのか、中間宿主を経由したのかという謎は残っている。

2026年には、東京大学医科学研究所のG2P-Asiaによるタイの研究、カンボジアでの大規模調査、ブラジルの新たなベータコロナウイルスの報告、タイの追加研究など、重要な成果が続いた。

これらの研究が共通して示しているのは、ウイルスの遺伝的な類似性と、人間への実際の感染リスクは必ずしも一致しないということだ。

今後は、野生動物の継続的なウイルス監視、感染経路の解明、国際的な情報共有が重要になる。コウモリを一方的に危険視するのではなく、生態系を守りながら人間との接触リスクを管理することが、次のパンデミックを防ぐための現実的な課題である。

2026年11月現在、SARS-CoV-2の起源には未解明の部分が残る。しかし、コウモリ由来コロナウイルスの研究は着実に進み、将来の感染症を早期に発見し、被害を抑えるための科学的基盤を広げている。

主要な参考資料

- WHO「SAGOによるSARS-CoV-2起源の独立評価報告書」(2025年6月27日)
- 東京大学医科学研究所「タイのコウモリから発見された新たなウイルス群」(2026年5月7日)
- Cell「Virological characteristics of SARS-CoV-2-related coronaviruses dynamically circulating in Southeast Asia」(2026年5月6日)
- Nature Communications「Characterization and evolutionary history of novel SARS-CoV-2-related viruses in bats from Cambodia」(2026年7月23日)
- Nature Communications「A divergent betacoronavirus with a functional furin cleavage site in South American bats」(2026年9月5日)
- Communications Biology「Assessment of the zoonotic spillover potential of SARS-CoV-2-related coronaviruses from Rhinolophus pusillus bats in Thailand」(2026年10月5日)

※2026年の研究成果は、それぞれの論文の公表日と実際の試料採取時期を区別して記載しています。